自己破産をしたら、借金が全額免除されると考えている方も多いかもしれません。
しかし実際には自己破産しても残る負債があり、注意しなければなりません。
自己破産しても返済しなければならない負債を「非免責債権」といいます。
今回は自己破産の非免責債権にどういったものがあるのか、具体例を交えてわかりやすくご紹介します。
監修
弁護士法人サンク総合法律事務所
弁護士 町田 麻美
非免責債権とは
非免責債権とは自己破産をしても免除してもらえない債権です。
自己破産で免責許可が出ると、ほとんどすべての借金が免除されます。しかし非免責債権だけは免除されず、支払い義務が残ります。
非免責債権がある場合、自己破産で無事に免責許可が出ても、手続き後に全額支払いをしなければなりません。支払えないなら債権者との協議が必要ですし、協議できなければ訴訟を起こされる可能性もあります。
税金や保険料を滞納している場合、「訴訟なし」でいきなり預貯金や家、車、給料などを差し押さえられるおそれもあり、さらに高いリスクが発生するといえるでしょう。
自己破産するときには、事前に「非免責債権があるかどうか」をチェックしておきましょう。
非免責債権の種類
非免責債権の種類は破産法に列挙されているので、まずは条文を確認しましょう。
① 租税等の請求権
② 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③ 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
④ 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
⑤ 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
⑥ 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
⑦ 罰金等の請求権
条文のままではわかりにくいので、以下で具体例をまじえてどういった非免責債権があるのか、わかりやすく説明します。
【税金や保険料】
税金や保険料などの債権は自己破産しても免責されません。具体例は以下の通りです。
- 所得税
- 相続税
- 住民税
- 事業税
- 固定資産税
- 健康保険料
- 介護保険料
- 年金保険料
- 下水道料金
【悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権】
悪意をもって行った不法行為にもとづく損害賠償請求権は免責対象になりません。
悪意とは、単なる故意を超えて「相手に害悪を与えてやろう」という積極的な加害意思です。
・窃盗や横領、名誉毀損などの犯罪行為にもとづく賠償金
犯罪行為の賠償金は自己破産をしても免責してもらえないと考えましょう。
【故意や重過失によって加えた他人の生命身体へ向けた不法行為に基づく損害賠償請求権】
生命や身体に向けられた不法行為の場合「故意や重過失」によるものであれば非免責債権となります。生命身体へ向けられた場合には、「悪意」までは不要です。
・危険運転によって引き起こした交通事故の損害賠償請求権
【婚姻費用、養育費、扶養料】
以下のような債権は非免責債権であり、自己破産をしても免責されません。
- 夫婦間で負担すべき生活費(婚姻費用)
- 子どもの養育費
- 親族間の扶養義務
未払い分は破産後も支払わなければなりませんし、将来分も発生します。
【個人事業主の雇用契約に基づく給料や預り金の返還請求権】
個人事業主が従業員を雇っているときの給料や預り金などは、自己破産しても免責されません。
【知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権】
債権者隠しをするため、判明しているのにあえて債権者名簿に載せず、裁判所に報告しなかった債権は、破産しても免責されません。ただし債権者が破産手続開始決定を知っていた場合には免責対象となります。
【罰金】
- 交通事故の罰金
- 盗撮や痴漢で罰金
- 暴行事件を起こして罰金
このように刑事罰として罰金刑を受けていた場合、破産しても免除されません。
免責すると破産によって犯罪行為まで許されることになって不合理だからです。払えないと労役場に留置されて強制労働させられる可能性があります。
非免責債権と免責不許可事由の違い
非免責債権と免責不許可事由は混同されやすいので、違いをおさえておきましょう。
免責不許可事由とは
免責不許可事由とは、該当すると免責されない事情です。
免責不許可事由によって免責不許可となると、そもそも免責許可が下りないので一切の負債が免除されません。非免責債権だけではなく、すべての負債がそのまま残ってしまいます。
たとえば以下のような事情が免責不許可事由の典型例です。
- 浪費、ギャンブル、投機行為
- 財産の毀損、不当に減少させる行動
- クレジットカードの現金化
- 特定の債権者のみを優遇して弁済、担保提供
- 債権者隠し
- 財産隠し
- 裁判所や管財人業務を妨害、協力しない
ただし免責不許可事由があると、絶対に免責されないわけではありません。
裁量免責といって、裁判所の判断によって免責を認める制度があります。
実際には浪費やギャンブルなどの免責不許可事由があっても裁量免責によって免責を受けられるケースが多いです。
非免責債権との違い
非免責債権と免責不許可事由の何が違うのか、みていきましょう。
・特定の債権か全部の債権か
非免責債権の場合には、該当する特定の債務だけが残ります。その他の債権は免責許可決定によって免除されます。
免責不許可事由があって免責不許可となってしまったら、すべての負債の支払い義務が残ります。
・免責との関係
免責が許可されても免責が不許可になっても影響を受けません。どちらにしても全額払う必要があります。非免責債権があるからといって免責の判断に影響を与えることもありません。
免責不許可事由は「免責をうけられるかどうか」の判断基準となる事情です。免責不許可事由があると免責をうけられなくなる可能性があります。
・裁量免責の有無
免責不許可事由には裁量免責が適用される可能性があります。免責不許可事由があっても裁量免責されれば免責を受けられるので、負債の支払い義務がなくなります。
非免責債権には裁量免責に相当する制度がないので、例外的に免除してもらえる可能性はありません。必ず手続き後に支払う必要があります。
免責されるかどうか心配な方は弁護士へ相談を
非免責債権がある場合、自己破産後に債権者と協議して支払い方法を決めなければなりません。
放置していると、訴訟を起こされて財産を差し押さえられる可能性もあります。
税金や保険料の場合には訴訟なしで差し押さえをされるため、放置すると極めて危険です。早めに税務署や市役所などと協議して分割払いなどをさせてもらいましょう。所得が低い場合には減免措置が適用される可能性もあります。
非免責債権に対しては債権の種類に応じた個別対処が必要となります。弁護士からアドバイスを受けながら対応を進めましょう。